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名古屋高等裁判所 昭和35年(ネ)511号 判決 1963年4月16日

三重県多気郡明和町大字大淀乙七百三十七番地

控訴人(原告)

合資会社明造商店

右代表者代表社員

橋爪栄一

右訴訟代理人弁護士

窪田稔

名古屋市中区南外堀町六丁目一番地

被控訴人(被告)

名古屋国税局長

大村筆雄

指定代理人 林倫正

北河登

天池武文

上田金蔵

佐藤辰男

藤井栄

右当事者間の昭和三五年(ネ)第五一一号法人税審査決定取消控訴事件につき当裁判所は左のとおり判決する。

主文

原判決中、被控訴人が控訴人に対し、昭和二十七年二月六日附にてなした控訴人の審査請求を棄却する旨の決定のうち「松阪税務署長が昭和二十三年一月十一日から同二十四年一月十日までの事業年度分につきなした法人所得の更正決定」の審査請求棄却決定の取消請求を棄却した部分を取消す。

被控訴人が控訴人に対しなした、前項の更正決定に対する控訴人の審査請求を棄却する旨の決定は之を取消す。

訴訟費用(右決定の取消請求に関して生じた分)は第一、二、三審共被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同趣旨の判決を求めた。

被控訴代理人は本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とするとの判決を求めた。

当事者双方の主張並びに立証関係は、左に附加する外、原判決事実摘示のとおりであるから之を引用する。

控訴代理人の陳述

一、控訴会社は営業開始にあたり訴外橋爪真次から原料の大豆類の外醤油粕三、七五〇貫を引継いだ。

控訴会社は右醤油粕にて代用醤油を造るため、一年計算の期間中に、右醤油粕に塩水を混じ代用醤油モロミとしたが、一年計算の期首である右引継当時に右醤油粕の一部が腐敗していたため、その後腐敗が拡がりモロミの相当量が腐敗代用醤油モロミとなつた。

かかる仕末で一年計算の期間中には不良返品の醤油がたくさんあり、その期末には代用醤油に換算すれば七〇石位に当る九〇石余の腐敗代用醤油モロミが現存した。

控訴会社の一年計算期間における塩の出入は左のとおりである。

(一)  期首有高 七、一五〇瓩

(二)  期中仕入高 一九、七〇〇〃

(三)  期中使用量 二一、三九三〃

(四)  期末残高 五、四五七瓩

右(三)の期中使用量の内訳は左のとおりである。

(イ)  味噌用 六、四五六瓩

(ロ)  同上(乙第二十号証の六〇五貫及びこれを救済のため使用) 五〇〇〃

(ハ)  醤油用(乙第二十一号証) 一四、一〇七〃

(ニ)  同上 三三〇〃

右のごとく正規に塩を使用して醤油(代用醤油も含む)又はモロミを製造したが、前記のとおり期末に九十石余の腐敗代用モロミ(醤油換算約七〇石)を抱えねばららなかつた。

二、本件審査決定処分は法人税法第三五条七項に違反してなされた違法がある。

被控訴代理人の陳述

一、控訴人が昭和三十六年五月十五日の口頭弁論において七〇石位の醤油ができたことを否認したのは、自白の徹回であるから異議を申立てる。

二、控訴人の主張する腐敗したモロミは一年計算の期間内に製造されたものでない。このことは控訴会社は一年計算の期間内に腐敗の事実を主張したことなく、昭和二十五年十月松阪税務署長の更正決定があつてから始めて腐敗したことを云い出したところから観ても窺われる。

三、控訴会社の本件所得の決定は、控訴会社の帳簿等はずさんであつたため推計の方法によつてなされたものであつて、かかる場合の手続としては合理的である。

四、協議団は国税局長の諮問機関であるから、被控訴人は協議団の報告を参考として審査決定をすればよいのであつて、協議団の報告を参考としてなされた本件審査決定手続には法人税法第三五条の違反はない。

立証関係

控訴代理人は、甲第二十九乃至第三十七号証、第四十一号証、第四十二号証の一、二、第四十三号証、第四十四号証の一、二、第四十五、第四十六号証を提出し、当審証人清水壱良、吉村次郎、中村義太郎、薗部隆太郎、永野助栄門、中川安太郎、喜多鹿蔵、真弓金二郎、田口長次郎、岩塚源次郎、山中兼三郎、橋爪真次の各証言、控訴会社代表者本人尋問の結果、及び当審における検証の結果を援用し、乙第三号証の成立を認め、乙第十四号証の二、第十六号証を否認し(以上乙号各証は従来の認否を訂正)乙第二十五号証を否認し、乙第二十六号証の成立を認め、乙第十九乃至第二十三号証を利益に援用した。

被控訴代理人は、乙第二十六号証を提出し、当審証人真弓金二郎、藤具貞の各証言を援用し、甲第二十九乃至第三十七号証、第四十一号証、第四十三号証、第四十五号証は不知と答え、甲第四十二号証の一、二、第四十四号証の一、二、第四十六号証の成立を認め、甲第四号証、第二十五号証を利益に援用した。

理由

被控訴人の審査請求棄却の決定

控訴人は味噌醤油等の製造販売を業とする合資会社であるが、昭和二十四年三月七日所轄松阪税務署長に対し、昭和二十三年一月十一日から同二十四年一月十日までの事業年度分法人所得は金七万三千五百五十二円十七銭の欠損である旨の申告をなして法人税を納付しなかつたこと、右申告について松阪税務署長は控訴人に対し、右事業年度分法人所得を金十五万四千四百十九円と更正決定し、昭和二十五年十一月十日頃その旨の通知をなしたこと、右更正決定に対し控訴人は昭和二十五年十一月十四日附にて被控訴人である名古屋国税局長に対し之が減額方の審査請求をなしたこと、右審査請求に対し被控訴人は昭和二十七年二月六日控訴人に対し右更正決定は不当と認め難いとの理由にて右審査請求を棄却する旨の決定(昭和二十四年一月十一日から同二十四年六月三十日までの事業年度分法人所得の更正決定に対する審査請求についても同時に棄却の決定)をなしたことは当事者間に争がない。

控訴人の右事業年度における所得

一、味噌売上高

被控訴人は味噌売上高は金三一万〇、八二七円であると主張するが、控訴人の主張立証によれば金二七万八、八四九円八六銭であることが認められ、右判断の理由は原判決説示のとおりであるから之を引用する。

二、醤油売上高

(一)  右売上高の判断については、右事業年度における控訴人の塩の消費関係から検討する。

(1)  控訴人が橋爪真次から引継いだ期首当時の塩

七、一五〇瓩

(2)  同事業年度中購入した塩

一九、七〇〇瓩

(3)  同事業年度中味噌製造に使用した塩

六、四五六瓩

(4)  期末棚卸塩

五、四五七瓩

右(1)乃至(4)の塩の出入については当事者間に争がないから差引き

一四、九三七瓩

の塩が特別の事情がない限り醤油製造のために向けられたと考えねばならぬ。

しかるところ、被控訴人は、控訴人が右数量の塩を使用して醤油(代用醤油を含む)を製造し、右年度中の控訴人の醤油(同上)の売上石数は、右塩による製造量と、橋爪真次から引継いだ期首の一五石四九二から期末の在庫量二石〇七〇を差引いた数量であつて、その売上金高は、売上明細表(乙第四号証の二)の金五七万四、三九八円〇二(二八五石一九〇相当)の外に、金二六万八、五四六円一三(七三石六五五相当)計上せられる。なおこの七三石六五五の塩の使用量は三、一八五瓩であると主張し、

右主張に対し控訴人は、右塩の内五〇〇瓩は六〇五貫の味噌製造及び之が腐敗を防止せんとして使用し、その他は醤油(代用醤油を含む)製造のため使用せられたが、醤油(同上)の売上石数は、被控訴人主張の期首引継分から期末在庫量を差引いた分を合せて二九〇石〇八〇であり、その売上金高は五七万四、三九八円〇二であつて、右売上関係(但し右事業年度における製造分)以外の塩の使用は、橋爪真次から引継いだ醤油粕三、七五〇貫に塩を投じ代用醤油の製造にかかつた分であるが、右粕に腐敗分があつてそれが拡がつたため相当量のモロミが腐敗し、一部製造し販売した醤油は不良品として返品せられ、結局期末当時には代用醤油に換算すれば七〇石位に当る九〇石余の腐敗モロミが現存する有様であつたと抗争する(控訴人において右二九〇石〇八の醤油の外に、七〇石位の製造ができたとは自白していない)

(二)  右双方の当事者の主張によれば本件の主たる争点は右年度中に九〇石余の腐敗モロミができたか否かである。

そこで案ずるに、原審検証の結果によれば、原審検証の当時である昭和二十八年三月二十三日、控訴人の仕込倉に七樽の醤油の腐敗モロミがあつて、その量は約七十三石、又一樽の味噌腐敗モロミがあつて、その量は約十二石三斗現存したことが明かであり、原審証人古橋彦作の証言並びに同証言により成立を認める乙第二十号証、当審証人橋爪真次の証言により成立を認める甲第二十一号証の二及び弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人が本件審査請求をした頃すでに右腐敗モロミが現存していたことが認められるところ、成立に争がない乙第一号証の二によれば、控訴人が橋爪真次から醤油粕三、七五〇貫引継いだことが認められ、当審証人橋爪真次の証言により成立を認める甲第二十一号証の一、二、当審証人清水壱良、山中兼三郎、吉村次郎、田口長次郎、岩塚源次郎、中川安太郎、喜多鹿蔵、薗部隆太郎、永野助栄門、中村義太郎の各証言を総合すれば、昭和二十三年に、(イ)控訴人が出荷した醤油が不良のため苦情が出たり、返品されたりした例は二、三に止まらず、時には公団から原料の配給を一時停止されたこと、(ロ)控訴人が原料に見合う責任出荷量の一二石を出荷しなかつたため差益金を徴収せられたことが認められ、之等の事実に、成立に争がない甲第二十四号証、原審並びに当審証人橋爪政次、当審証人橋爪真次の各証言、原審における控訴人の会社代表者中山長太郎当審における同橋爪栄一の各本人尋問の結果を総合すれば、控訴人は昭和二十三年中に代用醤油を製造するため醤油粕に塩などを投入してモロミ約九〇石を造り一部は醤油までに仕上げたものもあつたが右モロミの大部分は腐敗し(前認定の腐敗モロミ約七三石はその残存物)右製造した一部の醤油は不良品となつたこと及び前示一四、九三七瓩の塩は、そのうち腐敗に帰した六〇五貫の味噌製造の際に使用せられた外は控訴人主張の売上関係の醤油製造と右代用醤油製造のために投入せられたことが認められる。

もつとも原審証人古橋彦作、清水壱良の各証言によれば、昭和二十三年当時は原料が配給統制下にあつたから醤油モロミが腐敗などした場合は組合に届出をしなければならなかつたに拘らず、控訴人は右モロミの腐敗については組合に届出をしなかつたことが認められるが、右事実があるからとて前段認定の妨げとなるとは考えられず、その他被控訴人の全立証によるも未だ前段認定を左右することができない。

従つて控訴人の右事業年度における醤油の売上金高は金五七万四、三九八円〇二であると断定しなければならない。

三、右事業年度における控訴人の所得

右事業年度における控訴人の味噌、醤油の売上金高は前示認定のとおりであつて、控訴人の右事業年度におけるその他の収支は被控訴人主張のごとくであることは当事者間に争がないから、控訴人の右事業年度における収支を計算すれば次のとおりとなる。

収入

味噌売上高 二七八、八四九円八六

醤油売上高 五七四、三九八円〇二

ソース売上高 八、〇五五円四〇

雑収入 三七、五五八円〇〇

原材料棚卸 四一八、四三九円六九

公団立替金 四二、五三〇円〇〇

合計 一、三五九、八二九円九七

支出

仕入金 六〇九、二三四円五八

公団マージン 一九一、二一三円二三

諸経費 二八六、八九九円二九

創立当初引継原材料 一九二、四八九円〇〇

運賃 七一、九三二円六六

雑損失 三、五一一円五〇

合計 一、三五五、二八〇円二六

差引 金四、五四九円九一

すなわち右金四、五四九円九一が右事業年度における控訴人の所得である。

更正決定の適否

控訴人の右事業年度における所得は右のごとく四、五四九円九一であるに拘らず、松阪税務署長は控訴人に対し右事業年度の所得を金一五万四、四一九円と更正決定をしたから右更正決定は不当であつて訂正さるべきである。

結論

しからば被控訴人が控訴人に対し、昭和二十七年二月六日附にてなした控訴人の審査請求を棄却する旨の決定は違法であるから之を取消すべきである。

よつて原判決中右審査請求を棄却した決定は違法でないと判断し之が取消請求を棄却した部分は失当として之を取消すべく、訴訟費用の負担につき民訴九六条、八九条に則つて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂本収二 裁判官 西川力一 裁判官 渡辺門偉男)

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